職場で呼び捨てはハラスメントなのか?

「社外の人がいるいないに関わらず、部下は呼び捨てするのが普通じゃないの!」

「私も普段から呼び捨てされているから別になんとも思いません」

「いやいや、やっぱり今の時代はさんづけにしないと嫌な気持ちになる人もいますよ」

これは、ハラスメント防止研修の中で、職場での呼び方についてディスカッションしている時によく出てくる声です。

話を聞いていると、組織の体質や考え方が呼称にも表れていることがよくわかります。

若手部下に対する職場での呼び方調査結果

2024年1月5日の日経新聞に、『仕事中は「ぴぐもん」』という記事が掲載されていた。
この記事の中でリクルートワークス研究所が若手部下に対する職場での呼び方に関する調査結果が引用されていた。

私も元記事を読んでみると以下のようなもの

「さん」づけ(苗字や名前にさんをつけて呼ぶ)79.3%
呼び捨て18.4%
「ちゃん」「くん」づけ(苗字や名前にちゃん・くんをつけて呼ぶ)25.2%
ニックネーム8.9%
役職名(役職名のみ、もしくは苗字・名前に役職名をつけて呼ぶ)9.9%
その他0.4%

出所:リクルートワークス研究所 大手企業管理職の若手育成に関する定量調査報告書より作成

この結果からも、「呼び捨て」や「あだ名」で呼ばれることに違和感を持つ人が少なくないことがわかります。

呼び捨てやあだ名がハラスメントにつながる理由

さて、皆さん、この調査結果を受けてどう思われますか?

そもそも、あだ名や呼び捨ては、上下関係を植え付ける最初の言葉になります。
そのため近年の小中学校では、いじめの温床になりやすいという理由から「あだ名禁止」のルールを設けるところが増えています。
また、「ちゃん」や「くん」はジェンダーの関係から避ける傾向にあります。

とはいえ、日経新聞の記事のように上下関係の壁を壊して距離を近づけるのに、組織内だけで自分が呼ばれたい名前(ニックネーム)で呼び合うのもひとつのやり方かもしれません。
職場全体であだ名で呼ぶのはハードルが高そうです。
しかし、何かのプロジェクトや活動の場だけ、自分で決めたニックネームで呼び合うことで上下関係を意識することなく自由に意見やアイデアを出し合える関係性を築けるのではと思います。

「呼ばれたい名前」を決めるワークで安心感

これは、私が実際にある大学のキャリアデザイン授業の中で行っている実例です。

私は、「この授業の間だけ自分が呼ばれたい名前を決める」ワークから講義に入ります。
そして、ニックネームを決めたら、ニックネームの紹介をするとともに、なぜその名前にしたのかをシェアすることで自己開示にも繋がり学生同士の仲が良くなる効果があります。

このワークは、心理的安全性を担保するきっかけにもなりますので大学の授業だけではなく企業研修の中でも取り入れることが多いです。

厚労省が示す「言動への配慮義務」

厚生労働省が定める パワハラ防止指針(労働施策総合推進法に基づく指針) では、次のように記されています。

  • 労働者は「他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう努めること」
  • 事業主も「職場における言動に必要な注意を払うように努めること」

(出典:厚生労働省「事業主が職場におけるハラスメント防止のために講ずべき措置等について」

この「言動」には、呼称や言葉遣いも含まれます。

呼び捨てや不適切なあだ名が、相手の就業環境を害する可能性があることから、呼び方への配慮はハラスメント防止の重要な一歩と位置づけられるということは心に止めておきましょう。

呼び方を話し合うことが予防につながる

私は基本的に、職場では「さん」づけを推奨しています。
ただし一方的にルールを押し付けるのではなく、「どう呼ばれると安心できるか」を職場で話し合うことで互いの思いや考えを知る良い機会になるのではと思っています。

呼び方のルールをみんなで共有することで、互いの価値観を知るきっかけとなり、結果的にハラスメントの芽を摘むことにもつながります。

一度皆さんも職場で話し合いの機会を持ってみませんか。