【コラム】組織のダイバーシティ調査から見える 推進の壁と見直しの視点
組織のダイバーシティ(多様性)に関する定量調査/パーソル総合研究所

ダイバーシティ推進に取り組んでいるのに、現場の手応えが薄い。
あるいは、制度は整えているのに、職場ではぎこちなさや遠慮が残っている。
研修を実施すると、このような悩みを人事や総務の担当者から伺うことは多くあります。
そこで今回は、パーソル総合研究所の「組織のダイバーシティ(多様性)に関する定量調査」のもとに、要点を整理してみたいと思います。
特に注目したいのは、「どんな人がいるか」だけではなく、「人と人がどう関わっているか」に目を向ける必要がある、という点です。
理念には賛成。しかし現場ではストレスが起きている
まず、この調査から見えてくる大きなポイントは、ダイバーシティの理念そのものには多くの人が賛同している一方で、現場では葛藤が起きているということです。
調査では、ダイバーシティの理念自体には6〜7割が賛同しているものの、「価値観の異なる同僚と働くこと」に半数以上がストレスを感じているとされています。
さらに、理念には賛成しつつも、実際には抵抗感やストレスを抱える「ダイバーシティ葛藤派」が約4割を占め、組織の中で最も多い層になっているとのことです。
つまり、建前としては「多様性は大切」と考えていても、本音では戸惑いや疲れを感じている人が多い、ということです。
しかも、その背景には、施策の空回り感、評価に対する不公平感、本音で話しにくい過剰な気遣い感があると報告されています。
この点は私もよく耳にすることですが、制度を整えた = ダイバーシティに取り組んでいる と言った見かけだけで中身が追い付いていないところがあるようです。(このことをある方は「ショールーム型」とおっしゃっておりました)
残念ながら、制度を整えるだけでは、現場の納得感や安心感まではつくれない点は、見過ごせません。
多様な人材をそろえるだけでは、かえって摩擦が起きることも
次に重要なのは、多様性を高めること自体が、必ずしもそのまま良い結果につながるわけではないという点です。
調査では、年齢や性別などの「属性のダイバーシティ」、性格や経験などの「価値観のダイバーシティ」が高まること自体が、かえって葛藤や摩擦を生み出す要因になっていることが示されています。
これは、ダイバーシティ推進に関わる担当者にとって少し厳しい示唆ではないでしょうか。
なぜなら、「多様な人材がいる状態」をつくることと、「多様な人材が力を発揮できる状態」をつくることは、別の課題だからです。
言い換えると、採用や配置で多様性を高めても、その後の関わり方が整っていなければ、現場では「やりにくさ」や「気疲れ」が先に出てしまう可能性があります。
この点を押さえずに施策を進めると、現場からは「また新しい取り組みが増えた」「配慮ばかりで話しにくい」と受け止められるおそれがあります。
これから注目すべきは「関係のダイバーシティ」
そこで、この調査で新しい観点として示されているのが、「関係のダイバーシティ」です。
これは、属性や価値観といった個人の違いではなく、従業員同士の「つながり」や「つながり方」に着目する考え方です。
たとえば、誰とつながっているのか、相談先が偏っていないか、会話の頻度はどうか、やり取りの内容は業務連絡だけに偏っていないか、といった点です。
「関係のダイバーシティ」が高いほど、ダイバーシティへの個人的な抵抗感を下げ、受容度を高める傾向があると調査から読み取れました。
さらに、チームのパフォーマンス向上、イノベーション活動の促進、働く上での不幸せ実感の低下にもつながることが確認されています。
つまり、ダイバーシティ推進の成否を左右するのは、単に属性が多様かどうかだけではなく、職場の中で人と人がどうつながっているか、ということです。
「人がいる状態」から「関われる状態」への転換
これまでは、「多様な人材を集める」「制度を整える」といった発想が中心だったかもしれません。
しかし、今回の調査を踏まえると、これからは「その人たちが自然に関われる状態をどうつくるか」が重要になります。
たとえば、異なる立場や価値観の人が同じ職場にいても、接点が少なければ理解は進みません。
また、会話の内容が事務連絡だけであれば、相手の考え方や背景を知る機会も増えにくいでしょう。
そのため、今後のダイバーシティ推進では、制度導入の数を増やすことよりも、ネットワークやコミュニティをどう形成し、どう強めていくかを考える必要があります。
ここを外すと、施策が増えても「現場の関係性」は変わりにくい、という点は率直に押さえておきたいところでした。
「関係のダイバーシティ」を高める4つのアプローチ

調査では、「関係のダイバーシティ」を高める方法として、4つのアプローチが示されています。
それが、「広げる」「太くする」「かき混ぜる」「つなげる」です。
*イラストは、NotobookLMのinfoグラフィックで作成
1. 広げる
まず「広げる」は、ネットワークの数を増やす考え方です。
相談先がいつも同じ人に偏っていると、関係は閉じやすくなります。
そこで、相談先の選択肢を増やしていくことが重要になります。
具体策としては、相談ネットワークの可視化、相談先レコメンド制度、社内メンターの複線化、新入社員や異動者へのオンボーディング、社内コーチングやキャリア相談制度などが挙げられています。
「困ったときに誰に相談できるか」を個人任せにしないことがポイントです。
相談先が見えない職場では、孤立も起きやすくなります。
2. 太くする
次に「太くする」は、会話頻度を増やすことです。
これは私も良く言うことですが、先ずコミュニケーションの数を増やさなければ人間関係は構築できません。
つながりがあっても、たまにしか話さなければ、関係は細いままです。
そのため、上司・部下間の1on1ミーティングの制度設計や、日々の15分雑談ミーティングなどが具体策として示されていました。
ここで大切なのは、話す機会を偶然に任せないことです。
忙しい職場ほど、必要最小限の連絡だけで終わりがちです。
しかし、それでは関係が深まりにくく、違いに対する理解も進みにくくなります。
3. かき混ぜる
さらに「かき混ぜる」は、会話内容を分散させるアプローチです。
業務連絡だけではなく、感情や価値観の共有を増やしていくことが狙いです。
具体的には、成功事例だけでなく失敗事例を共有する場、社内部活動やサークル活動への支援、全社懇親会、仕事に関する情報共有会、研修やプロジェクトの懇親会への金銭的支援などが挙げられています。
この視点は非常に重要だと私は思います。
なぜなら、表面的な会話だけでは、相手の価値観や考え方までは見えにくいからです。
例えば、自己開示をして自分の失敗体験を話したり、仕事のやり方や考え方を共有することで、相手の人となりもわかり信頼関係を構築することができるのではないでしょうか。
4. つなげる
最後に「つなげる」は、知り合い同士をつなぎ、組織の中の断絶を防ぐアプローチです。
具体策としては、社内紹介制度、クロス部署ランチ制度、同僚同士で行うPeer 1on1、部門横断型の研修や委員会、プロジェクト活動などが示されていました。
これは、部署や立場が違う人同士の橋渡しを、意図的に設計する考え方です。
自然発生的なつながりだけに任せると、どうしても似た人同士、近い人同士で固まりやすくなります。
だからこそ、「つながるきっかけ」を設計する意味があります。
風通しの良い組織は、対立がない組織ではない
この調査を踏まえ、もう一つ見逃せないのは、「関係のダイバーシティ」が高い組織は、仕事上の意見の対立はあっても、人間関係の摩擦には発展しにくいという点です。
つまり、風通しの良い組織とは、対立がない組織ではありません。
むしろ、仕事のための健全な対立はある。
けれども、それが感情的な対立や関係悪化につながりにくい。
そのような状態が目指す姿だと読み取れます。
そのためには、対立しても協調的な対話ができること、関係修復への期待が持てること、理念や議論の場について共通認識を蓄積していくことが大切だとされています。
制度や研修を通じて、対立を避けるのではなく、互いを理解し違いを受け入れる職場にしていくことが求められます。
施策を増やすより、「つながり」を設計することが大切
調査から見えてきたことは、やみくもにダイバーシティ施策の数だけを増やしても、「関係のダイバーシティ」は高まらないということです。
これは実務上、とても重要な視点だと思います。
施策数が増えるほど、「やっている感」を持ちやすくなります。
しかし一方で、現場から見ると、目的が見えにくい取り組みが増えるだけになりかねません。
その結果、かえって空回り感を強める可能性もあります。
だからこそ、これからは施策の数ではなく、ネットワークやコミュニティの形成・強化につながる施策に絞ることが重要です。
「何を増やすか」ではなく、「どんな関わりを増やしたいか」を先に考える必要があるのではないでしょうか。
ダイバーシティ施策が空回りしているように感じるときこそ、見直すべきは「人材の多様性」そのものではなく、「関係の多様性」かもしれません。
違いへの無意識の見方、つまりアンコンシャスバイアスに気づき、関わり方を見直すことが、関係のダイバーシティを育てる第一歩になるのではと思います。
出所:パーソル総合研究所 組織のダイバーシティ(多様性)に関する定量調査より
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