【コラム】「○○ちゃん」呼びはセクハラになり得る──職場での「親しみ」の危うさ

職場での「ちゃん付け」はハラスメント!

最近、職場における軽い親しみの言葉遣いが、思わぬ法律問題へと発展した判例が注目を集めています。

先日、佐川急便で働いていた女性が、年上の同僚男性から「○○ちゃん」と呼ばれ、さらに体形や下着への発言を受けたとして提訴。

その結果、東京地方裁判所は「セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)」にあたると認定し、男性に対し約22万円の賠償を命じる判決を下しました。
このコラムでは、この判例を起点に「ちゃん付けハラスメント」の意味、背景、企業・個人が取るべき対策などを整理します。

*以前に書いたコラムはこちら
「職場で部下を呼び捨てにするのはハラスメントなのか?」

「職場での呼び捨てはNG?ハラスメントと見なされる理由と心理」

どんな判例だったのか?

まず、今回の判例の要点を確認します。

  • 原告:佐川急便営業所に勤務していた女性(2021年5〜11月頃に同じ職場の年上男性から言動を受けた)
  • 被告:同じ営業所の40代男性(課は別)
  • 問題となった言動:
    • 被告が原告を名字に「ちゃん」を付けて呼びかけた。
    • 「体形いいよね」「かわいい」「俺なんかガリガリだよ」といった発言。
    • 下着についての言及もあったという。
  • 裁判所の判断ポイント:
    • 呼称「○○ちゃん」は、一般に子ども・交際相手など親しい関係で使われるもので、職場での同僚関係には通常そぐわない。よって、業務上の必要性が認められず、女性に不快感・羞恥心を与えた。
    • 外見・体形・下着への言及とあいまって、上司に類する立場(または影響力を持つ同僚)からの言動として、ハラスメント行為に該当。
  • 結果:男性に22万円の賠償を命じ、佐川急便は職場環境整備のため、女性に70万円を支払う内容で和解が成立。

(出典:日本経済新聞、毎日新聞より)

「親しみ」のつもりが失礼に?職場での「ちゃん付け」がNGな理由

なぜこのような“軽い言葉遣い”がハラスメントと認定されるに至ったのか、その背景を整理します。

●親しみ表現と力関係

「ちゃん付け」は、一般的に子どもや親しい友人、恋人など、親密な関係の中で使われる呼び方です。
裁判所も「幼い子どもに向けた呼称」と述べており、職場での使用には慎重さが求められます。

ビジネスの場では、年齢や立場に差がある相手を「○○ちゃん」と呼ぶことで、呼ばれた側が「子ども扱いされている」「対等な関係として見られていない」と感じることがあります。
また、今回の判例のように、呼称に加えて体形や外見などに触れる発言があると、単なる「親しみの表現」では済まされません。職場での適切なコミュニケーションの範囲を明らかに超えてしまうのです。

呼ぶ側に悪意がなかったとしても、相手がどう感じるかが重要です。
ビジネスの場では、「さん」「さん付け」「呼び捨てにしない」など、立場に関係なく敬意をもって呼び合うことが基本です。
信頼関係は、フランクさよりも「尊重」から生まれるものだと考えましょう。

ちなみに、私自身も仕事の場で「ちゃん付け」で呼ばれると、「同じ土俵で働く仲間として見られていないのでは?」と感じてしまいます。
どんなに軽い言葉でも、使う場と関係性を間違えると、相手を傷つけてしまうことがある――そのことを、この判例は教えてくれています。

●外見・身体言及とのセット

今回のケースでは、「体形いいよね」といった外見への言及や、「下着」に関する発言が問題となりました。
こうした言葉は、業務上必要なコミュニケーションではなく、相手のプライベートな領域に踏み込む行為と判断されました。

仕事の話のつもりでも、外見や身体の特徴に触れる発言は、相手にとって不快感や羞恥心を与えることがあります。
特に今回のように、「呼び方の不適切さ」と「身体への言及」が重なった場合、セクシュアル・ハラスメントと見なされる可能性が高まります。

職場では、相手の尊厳を損なうような言葉を避けることが基本です。
何気ない一言でも、「その言葉は仕事に必要か」「相手がどう受け止めるか」を一度立ち止まって考える――それが信頼を守る第一歩です。

●「親しみ」の名のもとに見えづらくなるハラスメント

「親しみを込めて」「あだ名っぽく」「冗談で言っただけ」――こうした言い訳は、ハラスメントの場面でよく聞かれるものです。
*実際に、私も事案対応ではよく聞きます!
ですが、言葉を発した側の意図よりも、受け手がどう感じたかが重視されるのが、現在の職場の考え方です。

今回の判例でも、男性が「親しみのつもりだった」と主張していた可能性があります。
しかし、職場という場では、年齢や立場、性別などによって受け取り方が変わります。
冗談のつもりでも、相手が不快に感じたり、上下関係の中で拒否できなかったりすれば、それは立派なハラスメントです。

「親しみ」と「軽視」は紙一重。
業務上の必要性がない言葉や呼び方は、控えるのが賢明です。
職場では“楽しい会話”よりも“安心して話せる関係”を大切にすること――それが信頼を築くコミュニケーションの基本です。

職場の言葉遣いと関係性を見直そう

この判例は、私たちに次のようなメッセージを届けています。

  1. 「親しみ」だからといって無条件に許されるわけではない
     言葉遣いは、受け手の立場・状況によって「親しみ」ではなく「軽視」「子ども扱い」「不快」につながる可能性があります。
  2. 呼び方ひとつでハラスメントになる
     業務上必要ない「ちゃん付け」や「あだ名呼び」が、受け手の尊厳を傷つけ、セクハラ・ハラスメントと評価されうることが本件で明らかになりました。
  3. 言葉だけでなく、伴う言動・環境も注視すべき
     今回のように「体形・下着」など身体に関する言及と呼称がセットだった点が、違法性の判断を左右しています。
  4. 企業・管理職の意識・仕組みが不可欠
     ハラスメントを防ぐには、研修やガイドライン、相談窓口の整備が必要です。今回、佐川急便も和解金支払い・職場環境整備を行う形になりました。
  5. 個人としても自覚を持って言葉を選ぼう
     上司・先輩・同僚の立場であっても、呼称・言葉遣い・発言する内容について「業務上必要か」「相手はどう感じるか」を振り返る姿勢が求められます。

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